冗談じゃない近似計算

『ご冗談でしょう、ファインマンさん(下)』に「ラッキーナンバー」という話がある。ちょっとみただけでは解けないような計算をファインマンが暗算で解いて、周囲の人間を驚かせるという話だ。たねあかしは、いろいろな「ラッキーナンバー」をもとに近似計算をしたわけなのだが、その計算を実際にやってみよう。
まず、
e^{3.3}
を計算する。このとき「ラッキーナンバー」は
\log_e 10 = 2.3026 \leftrightarrow e^{2.3026}= 10
\log_e 2= 0.69315 \leftrightarrow e^{0.69315}= 2
e = 2.71828
である*1。3.3=2.3+1だから、おおざっぱな近似で
e^{3.3} = e^{2.3} \cdot e \simeq 10 \times 2.71828 = 27.1828
とわかる。もうすこし正確にやろうとすると
e^{3.3} = e^{2.3026} \cdot e \cdot e^{-0.0026} \simeq 10 \times 2.71828 \times \{ 1-0.0026+\cdots \}\simeq 27.112125
となる。*2
同様に
e^{3}
を近似すると、
e^{3} = e^{2.3026} \cdot e^{0.69315} \cdot e^{0.00425} \simeq 10 \times 2 \times \{ 1+0.00425+\cdots \}\simeq 20.085
となる。また、
e^{1.4}
の近似は、
e^{1.4} = e^{0.69315} \cdot e^{0.69315} \cdot e^{0.0137} \simeq 2 \times 2 \times \{ 1+0.0137+\cdots \}\simeq 4.0548
となる。
ファインマンは指数関数の0のまわりの級数展開の式に代入すればできる、と友人たちをだました。しかし、1より大きい数(3.3とか)を代入したら高次の項がどんどん大きくなって発散するからだめで、ファインマンはこっそり「ラッキーナンバー」のまわりでテーラー展開していたのだ。
こうして、友人たちをさんざんだまくらかした後、ファインマンはベーテの暗算に驚いている。
ベーテが暗算したのは48の2乗だが、ちょっとまてよ、
48^2=(50-2)^2=2500-200+4=2304
で、日本のちょっと優秀な中学生なら、なんてことはない計算だ!
さっきの近似計算を頭の中で全部やった人間が、なんでこんな計算に驚いているのだろう?日本とアメリカの教育の違いか。いや、きっとファインマンは僕らをだまくらかしてるんだろうね。

*1:本当はイコールじゃなくて近似だけど、分かりやすくするためにイコールにしておく。

*2:本の値27.1126と値が違うが、近似の精度は5桁だから最後の6までは出ない。参考までに、もっと精度の良い値は27.1126389。もっと高次の計算をしても精度は上がらないから、6まで出ないような気がするのだが。